忘却に委ねて

恥じて生きるより熱く死ね

顔が変

「ある日突然、婚姻届の画像をあげてみんなをビックリさせたるけえの!」

 

彼は飲み会でそう言って笑っていた。彼の顔は変だった。変な顔に変な眼鏡をかけていて、服も変だった。思うところはあったものの、私は「絶対できる!!!」と叫び、ジョッキを呷った。私も彼も酔っていた。

 

それから10年間―大方の予想通り―彼が婚姻届の画像をアップロードすることはなかった。彼の周囲の人間も続々と身を固めていたからだろうか、彼のインセルツイートはますますひどくなっていた。やはり顔は変なままだった。

 

ある日、彼のツイートが途絶える。翌日も、翌々日も、彼がタイムラインに浮上することはなかった。

彼のプロフィールに飛んでツイートを読む。ニンニクと野菜が山盛りになったラーメンの画像をアニメソングの歌詞とともにアップロードしている。それから唯一言、「マンコ!」とだけツイートしていた。彼の最後のツイートだ。いいね欄はどうか。2次元のポルノで埋め尽くされている。やはりツイートが途絶えた日のものだった。

 

まさか、と思った私は彼の家まで走った。鍵は空いていた。一人暮らしとは思えぬ広い家の和室に向かう。アニメのタペストリーに囲まれた部屋の真ん中で彼は胎児のように丸まっていた。もう息はなかった。体は冷たく、死後硬直が始まっているようだ。

 

警察に、通報しなければ―――。

 

...ふと私は自分の視点がおかしいことに気付く。彼の遺体を高くから見下ろしている。ふわふわと浮いているようだ。やがて気付く。ああ、これは私だ。こんな変な死に顔をしているのは、私に他ならない。私は、死んだのか。

 

視界が闇に包まれていく。走馬灯を見る間もなく、意識が途切れた。

 

 

2023年 場所は伏す